レーモン・ルーセルと愉快な奇書
長々と書いてきましたが、ルーセル祭はこれで終わり。「アフリカの印象」や「額の星・無数の太陽」を読み返そうとも思ったのですが、それはまたいつかに回すことにして、一応了とします。
で、これまで引用してきた本やルーセルにいくらかの関連がある本を一覧して見ようと思います。直接、間接に関係していて、なおかつ私が持っているものに限られているので、その点はご容赦。
●ルーセルの作品
☆レーモン・ルーセル「アフリカの印象」岡谷公二訳・白水社
- 作者: レーモンルーセル,Raymond Roussel,岡谷公二
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2001/10
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私はこのなかではシモン「ファルサロスの戦い」も持っているのだけれど、冒頭の一ページ以上は読み進めていない。
☆レーモン・ルーセル「ロクス・ソルス」岡谷公二訳・平凡社ライブラリー
- 作者: レーモンルーセル,Raymond Roussel,岡谷公二
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2004/08/09
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解説の青柳いずみこ氏の、音楽の側面から見た文章も面白い。
☆レーモン・ルーセル「額の星・無数の太陽」國分俊宏・新島進訳・人文書院
- 作者: レーモン・ルーセル,Raymond Roussel,國分俊広,新島進
- 出版社/メーカー: 人文書院
- 発売日: 2001/08/01
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- 作者: 渋澤龍彦
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1990/07
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☆「シュルレアリスムの詩 シュルレアリスム読本1」思潮社
http://www.amazon.co.jp/dp/B000J7Y05U
三巻になるシュルレアリスム読本シリーズの一冊。相当数のシュルレアリスム系詩人の詩が、数ページ単位でずらっと並んでいる。原文を併記したら良かったのにと思うが要求しすぎか。
●ルーセル論
☆ミシェル・レリス「レーモン・ルーセル 無垢な人」岡谷公二訳・ペヨトル工房
- 作者: ミシェル・レリス,岡谷公二
- 出版社/メーカー: ペヨトル工房
- 発売日: 1991/11
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短文ばかりだが、基礎資料。さらに重要なことには、これにはルーセルの「私はいかにしてある種の本を書いたか」が(短篇を含んだ本全体ではない)訳載されている。重要な部分は岡谷公二氏の文章などにだいたい引用されてしまっているが、「アフリカの印象」の着想の元ネタを延々羅列している部分は人によっては、重要か。
- 作者: 岡谷公二
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 1998/10/01
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小伝、近年の遺稿新発見についての報告、レリスとの比較、ヴェルヌとの比較、ユイスマンスとの比較、アンリ・ルソーとの比較、彼の死んだシチリア島パレルモでの状況をいくつかの未訳文献とからめて紹介するもの、演劇との関係などなど、多岐に渡る。基礎資料その2。
また、「ロクス・ソルス」に採用されなかったふたつの挿話のうちのひとつ「アディノルファの新たな発見」を訳載。未完だが良いです。
☆フランソワ・カラデック「レーモン・ルーセルの生涯」北山研二訳・リブロポート
- 作者: フランソワカラデック,北山研二
- 出版社/メーカー: リブロポート
- 発売日: 1989/07
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奇行や伝説に満ちたルーセルの行動、言動を膨大な資料を用いて丹念に跡づけていく。伝説を誇張したり、無批判に受け入れるのではなく、やや皮肉な調子で記述をしている。奇人の一大ペイジェントを見ようと思って紐解くと、やや期待はずれになるだろう。そういうセンセーショナルなルーセル像を批判するのがカラデックの目標だろうし、それでもやはり相当に奇人ではある。
私がこれを読んで思ったのは、ああ、ルーセルは子供好きのするひとだったのだな、ということ。
基礎資料その3。
- 出版社/メーカー: ペヨトル工房
- 発売日: 1995/07
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すばらしく充実している特集号。どの文章も興味深く読めた。というかユリイカなどのやこういう雑誌の特集号に載っている文章を全部通読したのはこの号くらいのもの。中身は、ルーセル未完の長篇の草稿や、レリス、フーコー、カラデックの短いインタビュー記事、東野芳明と寺山修司の対談、北山研二、谷昌親、彦坂裕、岡谷公二、塚原史、酒詰治男らのルーセル論、ジャン・フェリーの「新アフリカの印象」のメカニズムの解説など。ルーセルがさまざまな文脈(ヴェルヌ等の科学小説、建築、美術、演劇、ウリポ、ヌーヴォーロマン)にかかわり、からんでいることがわかり大変面白い。ペレックの紹介を兼ねた酒詰治男氏の文章を読んで、とりあえず「人生 使用法」を買ってはみた。
また、巻末資料の充実度がすさまじい。仏語文献を大量に紹介していて、私には宝の持ち腐れだが。また、北山研二氏らは大学の紀要などによくルーセル論を書いているらしいことがわかった。しかし、それをどうやって読むのかがわからない。
さらに、かなりの図版や写真が掲載されていて、資料的価値も高い。
基礎資料その4。
この雑誌は確か13号くらいでシュルレアリスム特集をしていたりして、その筋の人にはたまらない雑誌だったのだろう。私はこれとシュルレアリスム号しか持っていないが。丹生谷貴志がよく書いている雑誌という印象。
☆ミシェル・フーコー「レーモン・ルーセル」豊崎光一訳・法政大学出版局
- 作者: ミシェル・フーコー,豊崎光一,Michel Foucault
- 出版社/メーカー: 法政大学出版局
- 発売日: 1984/09/01
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「言葉と物」とかとはちがって、対象が確定している文芸評論ならまだ読めるかな、と思ったが、難解。面白いし興味深い知見も鏤められていて読み応えのある本だけれど、内容を要約したり紹介できるほど理解はできていない。上のに比べると相当厄介だが、読む価値は充分以上にある。
☆アラン・ロブ=グリエ「新しい小説のために 付スナップショット」平岡篤頼訳・新潮社
- 作者: アラン・ロブ=グリエ,平岡篤頼
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1967
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ロブ=グリエの小説はほとんど読んでいない。彼がルーセルに影響を受けていると聞いて、短篇「秘密の部屋」を読んだことがあるくらいだ。その「秘密の部屋」だけれど、ほとんど描写のみによって成立しているその文章の雰囲気は、確かにルーセルらしいところがある。ただ「秘密の部屋」の作中では、一体何が起こってるのかよくわからない。時間を前後させているらしい(フラッシュバックのように)描写では、読者自身がその内容を組み上げねばならないのだろうけれど、その気にはならない。
「レーモン・ルーセルにおける謎と透明性」から
レーモン・ルーセルは描写する。そして彼の描写するもののかなたには、なにものもない。伝統的に |
90P |
☆ジャン・コクトー「阿片 ある解毒治療の日記」堀口大学訳・角川文庫
- 作者: ジャンコクトー,堀口大学
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1952/04
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☆「ユリイカ 特集*シュルレアリスムの彼方へ デュシャンとルッセル」青土社
デュシャンとルーセルという、シュルレアリスムから外れた人をあわせて特集してみた、というところか。デュシャン論とルーセル論がごっちゃに並んでいるという印象。それほどいい論文はない、かな。あまり印象にない。ここにも寺山修司が書いている。これに載っている「玉突き男ルッセル」は、講談社文芸文庫の寺山のエッセイ集「私という謎」の表題エッセイとたぶん同じ物。
- 作者: 塚原史
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2003/09/01
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何回かまえに私がここでルーセルの短篇を詳しく紹介したが、それをもうちょっと突っ込んで分析した小論が収録されている。「黒人たちの間で」という、「アフリカの印象」の直接の祖先である短篇を分析していた。
web
いとうせいこう「55note」
「ソシュールという構造主義の祖。
デュシャンという現代芸術の魔王。
ルーセルという孤高で無垢な文学者。
彼らアナグラムにかかわる天才たちはなぜ人生の一時期を沈黙して暮らし、またその時必ずチェスをしていたのか」
という覚書。私はルーセルのところしか読んでいないが、かなり面白い文章だ。無関係に思える三人の仕事を、チェスを通じて絡み合わせるという、アクロバティックだが説得力もある論考。ソシュールがアナグラムに凝っていた、というのは丸山圭三郎の講談社現代新書から出ている本で読んだことがある。その部分もかなり面白かった覚えがある。
「ルーセルの箱」
「GREENBOX」というデュシャンの本をサイト名にもつ、記号にかんする研究を掲載しているサイトの一コーナー。現代思想、記号論に詳しくないので、ついていけない感じがするので読んではいない。あと、サイトの管理者の名前がわからない。メールアドレスはあるけれど。
●ルーセルの敬愛したもの
☆ジュール・ヴェルヌ
ルーセルが最大限の賛辞を捧げる空想科学小説家。
「地底旅行」朝比奈弘治訳・岩波文庫
- 作者: ジュール・ヴェルヌ,朝比奈弘治
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1997/02/17
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楽天的な冒険小説で、付き添いのアイスランド現地人の扱いがひどいとか以外は普通に面白く読んだ本。ヴェルヌはいままで全く読んでいなかったので、ちょくちょく読もう。冒頭の方で、甥よりも甥の恋人である女性の方が冒険に前向きで、渋るアクセルの背中を叩くように激励する場面はおかしみがあっていい。
私はまたこの覚書の中で、ジュール・ヴェルヌというはかり知れない天才の持ち主に敬意を捧げておきたい。 彼に対する私の賛嘆の念は限りがない。 『地底旅行』、『気球での五週間』、『海底二万哩』、『地球から月へ』、『月世界旅行』、『不思議な島』、『エクトル・セルヴァダック』の或るページにおいて、彼は、人間の言葉が達しうる絶頂をきわめた。 |
「地底旅行」は岩波以外に創元SF文庫などで入手可能。「気球での五週間」は、いまはほとんどが品切れの集英社文庫でのジュール・ヴェルヌ・コレクションで「気球に乗って五週間」というタイトルで出ていたのが一番最近の物。「海底二万里」も集英社文庫、創元SF文庫、偕成社文庫などなど、多種。「不思議な島」は偕成社文庫で完訳が出ているほか、集英社文庫でも「ミステリアス・アイランド」として出ていた。
以上のことは日本語でのヴェルヌサイトとして最も充実していると思われる、
Jules Verne Page
を参照した。そこを調べてわかったのは、「地球から月へ」と「月世界旅行」というのは月旅行をめぐる二部作で、前者はこの直訳タイトル「地球から月へ」で、邦題は「月世界旅行」として以前ちくま文庫から出ていたもの。後者の「月世界旅行」は直訳して「月を廻って」となる作品で、「月世界旅行」「月世界探検」とかのタイトルで出ていた模様(いま入手できるのは創元SF文庫)。こんがらがってくるが、リンクしたページを見ていると、両者を抄訳して一冊にしている翻訳がある様子。いまは「地球から月へ」はどこからも出ていない模様。
また、「エクトル・セルヴァダック」は日本では一度も完訳されていない。1964年に抄訳が偕成社から出たのみ。ルーセルが挙げているということもあるが、「月世界三部作以外では宇宙を舞台にした唯一の作品であり、ヴェルヌの全作品中おそらく最も奇想天外な作品」ということなので、読んでみたいと思ったのだけれど。
☆岡谷公二「ピエル・ロティの館 エグゾティスムという病い」作品社
ピエル・ロティの館―エグゾティスムという病い (叢書メラヴィリア)
- 作者: 岡谷公二
- 出版社/メーカー: 作品社
- 発売日: 2000/09
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☆カミーユ・フラマリオン
フラマリオンの家を訪れたルーセルはそこでもらったクッキーを持ち帰り、専用の入れ物を作らせそのなかに大事に保存していたという。
フラマリオンが書いた小説は日本語では読める物がないようだ。ただ、上で紹介したジュール・ヴェルヌのサイトにはカミーユ・フラマリオンについてしっかりした紹介があるので、乞うご参照。
フランスの作家:同時代
また、リンク先にはフラマリオンの短篇小説を明治期に徳富蘆花が翻訳したものが掲載されている。徳富蘆花といえば明治のベストセラー「不如帰」だけれど、フラマリオンを翻訳していたとは。世界の終末を描いた短篇。
☆エミール・ガボリオ
以下に詳細な紹介がある。
「エミール・ガボリオ」
ミステリ・推理小説データベースというサイトの一ページ。このサイトの情報量は、驚くべきものがある。初読者のための案内にもなっているし、訳書情報など、相当のマニアにも有用だろう。
ポーは推理小説の創始者だが、ガボリオは世界ではじめてそれを長篇で試みた小説家ということになるらしい。ルーセルは推理小説を好んでいた(小説を読めば一目瞭然か)ようで、「セーヌ」という韻文劇にポーの「モルグ街の殺人」が引用されてもいる。そしてガボリオも好んで読んでいたらしい。
で、私もガボリオを読んでみようかと思って探してみたら、邦訳は軒並み絶版状態で読めるものがない。名前はよく聞くので、クラシックとしてどこかが出しているだろうと思ったけれど、ミステリだからといっても何でも出ているわけではないようだ。
と、そう思っていたら、藤原編集室のサイトで、ガボリオの「ルルージュ事件」が国書から出るらしいと知る。これが、世界初の長篇推理小説らしい。
●ポスト・ルーセル
☆ジョルジュ・ペレック「人生 使用法」酒詰治男・水声社
- 作者: ジョルジュペレック,Georges Perec,酒詰治男
- 出版社/メーカー: 水声社
- 発売日: 1992/07
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☆アラン・ロブ=グリエ「覗くひと」望月芳郎訳・講談社文芸文庫
- 作者: アラン・ロブ=グリエ,望月芳郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/03/10
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☆イアン・ワトスン「エンベディング」山形浩生訳・国書刊行会
ルーセルの「新アフリカの印象」を幼児期から聞かせ続けて、その奇怪な言語方式を習得できれば、今見えているのとは違う現実が見えるのではないか、という炸裂的アイデアで書かれたイギリスSFの雄、イアン・ワトスンの公式デビュー作。これについては後日ブログで記事を書くつもりなので、ここでは割愛。着想のネタになっている程度で、具体的に突っ込んだ言及は特にない。
●違った視点から
☆岡谷公二「アンリ・ルソー 楽園の謎」中公文庫
- 作者: 岡谷公二
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1993/08
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アルフレッド・ジャリ、アポリネール、ピカソ、ガートルード・スタインなど、意外な名前が出てきて、その点でも興味を惹かれる。
- 作者: 岡谷公二
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2001/08/01
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シュヴァルの理想宮
岡谷氏の本などを元に簡潔にまとめたサイト。
理想宮の詳細
理想宮の詳細な写真が数多く見られる貴重なページ。
連載コラム Yuko Nexus6のメディア呑氣堂】最終回 本日の出物――アウトサイダー建築・西洋編
コンピューター関連のサイト、アスキー24になぜか載っていた、シュヴァルについてのコラム。アウトサイダーアートと絡めて書いてあります。
シュヴァルの理想宮へ行こう!
少しのカラー写真と行き方。
- 作者: 服部正
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2003/09/17
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結構いい本だと思うのだけれど、トラックバックをいただいたはやしさんは、もっと図版の多い本を薦めている。
- 出版社/メーカー: 求龍堂
- 発売日: 2000/10/01
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●参考
アンカーポイント
ここでは、「ロクス・ソルス」についての記事と、参考文献を一覧した記事がある。
『アールヴィヴァン28号 特集レーモン・ルーセル』 と『独身者の機械―未来のイヴ、さえも……』 は是非欲しいなあ。
ルーセルの原書書影
- 作者: Raymond Roussel
- 出版社/メーカー: Atlas Press
- 発売日: 2005/02/01
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