四冊の「日本語の歴史」
●山口仲美「日本語の歴史」岩波新書
- 作者: 山口仲美
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/05/19
- メディア: 新書
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ネットのレビューなどでは、鎌倉室町時代の、係り結びの消滅と主格を表す助詞の活用による、論理的な文章への変化を叙述したところが評判がよい。日本語が非論理的なのではなく、論理的に整備された言語を論理的に使えないのが問題だということで、まあ、こういった日本語の非論理性を否定する議論そのものはずいぶん前からあるものなので、目新しさはないけれど、情緒を強調する係り結びからの変化として歴史的にとらえたところは面白い。
しかし、新書なため、やはり物足りない部分も多い。
●「日本語の歴史」平凡社ライブラリー
- 作者: 亀井孝,大藤時彦,山田俊雄
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2006/11/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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このシリーズ、第一巻が、日本語の歴史は日本民族の歴史である、として、日本の始まりから話が始まるのが特徴。歴史学、考古学、人類学などの学問を動員して、まずは日本民族がどこから来たかを論じる。執筆に江上波夫が入っていて、騎馬民族説に結構な頁を割いているところなどいまにしてみれば古くなってしまった部分だけれど、紹介しつつも学説そのものについてはそれに依存するわけではなく、きちんと保留して論を進めている(これを読むと、騎馬民族説が戦後歴史学に与えたインパクトの大きさがわかる)。
一巻はそのまま、日本列島の起源から、日本語起源論、系統論を経て、文字以前の原初日本語の話へと至る。様々な知見が満載だけれど、初学者に優しい書き方とは言えない部分が多いので、よくわからない箇所も散在している印象。
そういえば、この巻には、古代日本人について、人種学、というか形質人類学、というのか、そういった視点から見た日本人の特質について論じている部分がある。そこでは、日本人の骨格にかんする調査が紹介されていて、それによると現代日本人は、畿内型と東北・裏日本型に分類することができるとされ、また、東北型はアイヌに近く、畿内型は朝鮮系に近いという。そして、もっとも代表的な畿内人は、東北型よりも朝鮮人に近いらしい。
これは、1949年から四年間、全国町村別に同一基準で測定された五万人を超えるデータに基づいて、小浜基次によって報告されたものらしい。この話、以前網野善彦の対談集で網野が発言していて(確か小熊英二との対談だったので、いまは小熊の対談集で読めるはず)、そのときは特に根拠も提示されずに語られていたので、排外主義的ナショナリズムに対して持ち出すには確かに面白すぎる話だけれど、ちょっとトンデモ臭いし、突っ込まれる隙になりゃしないかと思っていたのだけれど、どうも、網野はこの報告をもとに発言していたみたいだ。この調査と結論について、その後なんか議論があったかどうかは知らないが、骨格から見た調査では日本人の朝鮮系との近親性が確認されるというのは面白い。
知人は、朝鮮韓国にレイシズム発言を繰り返す奴に、おまえみたいな顔のことを朝鮮顔っつうんだよ、と言ったらぶち切れられて喧嘩になったらしい。爆笑ですね。
- 作者: 亀井孝
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2007/01/11
- メディア: 文庫
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ここには、日本とは違う漢字受容の歴史が語られている。開音節(音節が母音で終わる)のため、音節数が限られる日本語と、閉音節もあり音節数が多い朝鮮語とでは漢字との親和性が異なり、このような歴史をたどったということらしい。朝鮮以外にも、西夏文字、契丹文字など、中国周辺国での文字に関しても語られていて面白い。いくつかの国や民族では、漢字を基にして新しく造字したり(日本にも国字がある)した歴史が語られ興味深い。
また、ここで著者は、表音文字と表意文字という二分法に疑問を呈している。そして、漢字は正しくは、「表語文字」というべきだと述べている。これはなかなか得心のいく意見だと思った。
前回の書紀成立論にまつわる余談だけれど、この巻では、書紀の編纂メンバーとして続守言が関わっている可能性が指摘されている。まあ、漢文で書かれた書紀に、当時渡来人として漢文の知識を豊富に持っていただろう人物が関わっているだろうという推測自体は、しごく蓋然性の高いものとして考えられていたのだろう。森博達の議論はそれに裏付けを与えた形になるのか。
日本語の歴史〈3〉言語芸術の花ひらく (平凡社ライブラリー)
- 作者: 亀井孝,山田俊雄,大藤時彦
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2007/03/01
- メディア: 単行本
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また、文章がなかなかの名調子でさくさく読んでいくだけでも面白かったりする。項目ごとに違う執筆者の書いたものを、編集委員がリライトするという形で書かれたらしいのだけれど、ある項目は特に文章に勢いがあるな、と感じたりできて面白い。隔月刊行らしいのでゆっくり読んでいこうかと。私としては一巻の解説に語られている、六巻あたりの近現代あたりのことが面白そうだと期待している。