「壁の中」から

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SFとか

●バラード「終着の浜辺」創元SF文庫

終着の浜辺 (創元SF文庫)

終着の浜辺 (創元SF文庫)

突如復刊されたバラードの短篇集。
「時間の墓標」から改題しての再刊だけれど、なんで改題したんだろうか。バラードの創元文庫での短篇集は、時間的に後の刊行の「溺れた巨人」をのぞいて、「時の声」「永遠へのパスポート」「時間都市」「時間の墓標」と、時間にかかわる言葉を含んだ短篇を表題に採るという方針があって、それがバラードらしくて良かったのだけれど。

読んでみた感じはそこそこ、かな。
面白かったのは「ゴダード氏の最後の世界」「甦る海」「ヴィーナスの狩人」「ある日の午後、突然に」あたりか。ゴダード氏、はいわば「フェッセンデン」ものなんだろうけど、世界構造の作り方がひねくれてるのと、SF的説明を全て捨てているところが特徴的。「蘇る海」はバラードらしいイメージ主導の作品でいい。そもそも、私の好きな小説のタイプというものの枠組みのひとつを作ったのはバラードのこういう短篇であって、こういう短篇が読みたくて幻想小説とかを漁っているから、嫌いな訳がない。それは「ある日の午後、突然に」も同じ。「ヴィーナスの狩人」はバラード得意のアンチSF的SF。UFOを見た、見ないの話なのに、UFOの存在とかはまるでどうでもいいあたりバラードとしかいいようがない。

他の短篇はなんだか順当、というかどこかで読んだことある感じがするくらいベタだったりするので取り立てていうことはない。広告の短篇はディックっぽかったりもする。
表題作でバラードの短篇中でも高く評価されていたりする「終着の浜辺」もどうもあまり面白く感じられなかった。読み方を間違ったのか、どうも世評で言われるほどには面白いとは思わなかった。
この手の終末ものでは「近未来の神話」が一番好きだ。

というか、どこかの出版社が早く「近未来の神話」を単行本で出すべきだ。ただ、単品としては短すぎるので、できれば「死亡した宇宙飛行士」あたりと合本にして。「死亡した宇宙飛行士」はレア過ぎて手に入らない。


スタージョン「海を失った男」晶文社

海を失った男 (晶文社ミステリ)

海を失った男 (晶文社ミステリ)

これでスタージョンは二冊目。短篇ベストセレクションを企図したという通り、かなり密度の高い短篇集だった。
異色作家短篇集のも復刊されて、スタージョン刊行ラッシュもそろそろ終わりかという時に、いまさらこの短篇集についてあまりいうこともないが、「夢みる宝石」(これはまだ復刊されてないが、時間の問題か)を読んだ時にも感じた、人間への信頼が基底にある物語はとてもいい。スタージョンの書く話は絶対的に優しく、甘い。人間同士が分かり合うとか、和解することへの希望と信頼が常にあって、それを力強く語り続ける。もちろん、全ての話がハッピーエンドな訳ではないが、それはいま書いたことと何ら矛盾しないところがまた魅力なのだろう。人間性の物語、というか、愛の物語というか。そういう小説だ。

所収短篇はどれも面白い。ただ、「SF」を期待して読む本ではないと思う。

スタージョンは読めば誰もが好きになってしまうというタイプの作家なんだと思う。だからブームになることができる。


ラファティ「地球礁」河出書房新社

地球礁

地球礁

で、読んでも訳がわからないからたぶん決してブームになりゃしねえだろうというラファティ

短篇はまだしも、長篇は意味不明だと評されることの多いラファティ。にしては、この「地球礁」はけっこうわかりやすい、というか話の骨子がきちんとしていて、普通に面白く読める。それでもちゃんとラファティっぽさは色濃い。死んでいるのか生きているのかよくわからないバッド・ジョンとか、大人たちよりも頭が良くて、からっとした残酷さが強烈に印象に残る子供だとか、歌ったとおりのことが起こるという割りには効果がいまいち不明なバガーハッハ詩とか、奇妙で不可解でユーモラスな作品世界が魅力的だ。「カミロイ人」シリーズなどのアンファンテリブルものの短篇が好きなら、これも読んで損はない。

長篇は他には以前に「パースト・マスター」を読んだが、かなり訳がわからなかったのを覚えている。やっぱり死者と生者が混交してしまうモチーフなんだけど、どんな話だったかさっぱり覚えていない。トマスモアが過去から連れ出されるんだったっけ?

で、手元に「悪魔は死んだ」と「イースターワインに到着」があるので、これから読んでみる。