「壁の中」から

むかしblogtribeにあったやつのアーカイブ

メモ 最近買った本

丹生谷貴志「使者の挨拶で夜がはじまる」河出書房新社

死者の挨拶で夜がはじまる

死者の挨拶で夜がはじまる

アラン・ロブ=グリエ「覗くひと」講談社文芸文庫
覗くひと (講談社文芸文庫)

覗くひと (講談社文芸文庫)

山田眞史「物語を探して ボルヘス、ベッケル、セルバンテスへの旅」近代文芸社
以上新刊。
以下古書
ユリイカ 特集*シュルレアリスムの彼方へ デュシャンとルッセル」青土社
シュルレアリスム読本1 シュルレアリスムの詩」思潮社
アラン・ロブ=グリエ「新しい小説のために 付―スナップショット」新潮社
岡谷公二「アンリ・ルソー 楽園の謎」中公文庫
谷川渥「幻想の地誌学」ちくま学芸文庫
マルセル・ベアリュ「水蜘蛛」白水Uブックス

丹生谷貴志のはいま読んでいるところだけれど、これはほとんど再読。以前図書館で借りて(定価二千円と高いので)ほとんど読んでしまった。それでも面白い。「家事と城砦」「女と男と帝国」なんかも借りて読んだ。どれか手元に置きたいと思っていたら、amazonでバーゲンセール品とかなんとかで、新刊だけれど840円とかで売りに出ていて、ロブ=グリエと山田眞史の本と一緒に買った。在庫整理かなにかだろう、本の底の部分に○にBの判子が押してある。

本自体は、面白さを説明するのがむずかしい。いわゆる「ポストモダン」な(?)ドゥルーズ派(?)の(文芸?)批評家で、その投げっぱなしの文章の湿度の低さ(の割には体言止めや……を多用する文体)、というか、いろいろな話題をきれいに整理してしまう鮮やかさ、というか、その独特の書くスタンスだとか、そういうのが魅力といえば魅力だろうか。よくわからないが、文章を読んでいて気持ちよくて、何度も読んでしまう。読み始めたのは、安部公房を論じている文章を見かけてからで、いまの批評家にしては珍しく(たぶん)、安部公房によく言及する。安部公房といえば私には思い入れの深い小説家なので、彼を話題にしているだけでも好印象。その言及の仕方も、どことなく冷めているのが面白い。

ロブ=グリエのいくつかの本はレーモン・ルーセル関係。「新しい小説のために」ルーセル論が入っていると聞き、ちょうど古書で千円くらいだったので購入。しかし、ルーセル論はたったの九ページ。えー……
「覗くひと」は、原題が「LE VOYEUR」。ルーセルの韻文詩「眺め」は「LA VUE」。ロブ=グリエはもともと「覗くひと」を「眺め」という題にしたかったが、版元の要請により現在のものに変えたらしい。「覗くひと」は、いわばロブ=グリエによるルーセル「眺め」の「書き直し」だ、と読んだので、俄然興味が出てきた。
しかし、「眺め」はもちろん、翻訳されていない……

ユリイカルーセル特集。なぜか(関連があるのは確かだが)デュシャンと一緒に。内容もデュシャン論とルーセル論にほぼ綺麗に二分されている。両者を関連づけて語っているのは高橋康也東野芳明の対談くらいだろうか。デュシャン論の方はめくってみただけなので正確にはわからないが。

シュルレアリスム読本」は、ルーセルの「新アフリカの印象」の抄訳(粟津則雄訳)が載っていると聞き購入。ただ、数ページだけ。それで全体の四分の一ほどらしいので、原書がどれほど短いかがわかる。「新アフリカの印象」は一冊の本にするには短すぎるために挿絵を相当数入れたというのは知っていたが、本当にかなり短いようだ。この詩の複雑な構成はそのうち紹介します。すごい。読めない。

アンリ・ルソー 楽園の謎」はルーセル、シュヴァル、ルソーという岡谷氏が注目する「精神の双生児」ともいうべき三人のうちの一人の評伝ということで、とても楽しみ。岡谷氏は他にも、 「郵便配達夫シュヴァルの理想宮」
という本を書いていて、これもとても面白かった (中村びわさんの書評)。前記の三人について、岡谷氏はそれぞれ一冊ずつ書いている。他にも、 ピエール・ロティについても一冊書いていて、これも読んでみたい。
ちなみに、この中公文庫版「アンリ・ルソー 楽園の謎」はいま絶版。

・フェルディナン・シュヴァルの理想宮の紹介サイト。
「シュヴァルの理想宮」


谷川渥「幻想の地誌学」は、古書250円と格安だったのと、内容に興味を惹かれて。冒頭だけ読んだ。十九世紀に世界地図がほとんど完成してしまい、海の向こうに夢の場所を夢見ることができなくなった時代、人々の目がどこに向かったのか、ということを論じた本だろうか(たぶん結構違う)。島、月、海、地底、密林、といった文字が目次に並ぶ。ヴェルヌ、ウェルズ、ポー、メルヴィルなどなど。それでいて、部屋から一歩も出ないユイスマンス「さかしま」を室内に反転した旅行と見、この両者の合わせ鏡という視点から十九世紀という「閉ざされた世界」を描く試みでもあるようだ。とても面白そう。いまちょうどヴェルヌ「地底旅行」を読んでいたりするので、それとのつながりでも興味深い。
そういえば、これを読んでいて驚いたのは、マグリットの「不許複製」という国語の教科書にも載っていた有名な絵があるが、この絵で描かれているのがポーの 「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」ボードレールによる仏訳だと指摘している部分だ。それは知らなかった。

マルセル・ベアリュ「水蜘蛛」は短篇集だったので、掌編を二三読んだ。ユーモラスな奇想。かなりいいかも知れない。そのうち全部読もう。

山田眞史「物語を探して」セルバンテス論のところだけ読んだ。かなり退屈。千五百円と安いし、セルバンテスボルヘス、と気になる名前が並んでいたので買ってみたけれど、失敗だった。セルバンテス論なんか、ドン・キホーテの気の狂い方、つまり風車を巨人と思いこんだりすることを「記号論」的に論じているらしいのだけれど、作中の記述を「記号論」的な言い方に言い直しているだけの、まったくの手抜き論文。まったく、なにも、一切、面白い指摘も分析も、ない。大学の紀要にはこんなのが載ってるのか。
この著者は、ベッケルというスペイン文化圏では子供でも知っているほどに有名だが日本ではほとんど無名の作家の訳者らしくて、ベッケル自体は読んでみたいが、この人の論文をこれ以上読む気はしない。