「壁の中」から

むかしblogtribeにあったやつのアーカイブ

2006年 もっとも聴いたCD5枚

本のベストを知りたい人はブログをさかのぼってもらうことにして、ちょっと音楽関連のことを書こうと思う。2006年とか言いながら、今年の新作は一枚だけだけれど。最後の方は文字数制限のせいで駆け足だけれど、IonaについてはボックスセットがHMVから届いたらまた記事を書くやも知れない。

the pillows / MY FOOT

MY FOOT

MY FOOT

このアイテムの詳細を見る結成17年目の通算16枚目になるのか、今年一月に発売された最新アルバム。これは久々に発売日にCD屋に行って買ってくるなんてことをした。先行シングルの「サードアイ」がよい出来だったので期待はあったのだけれど、その期待を上回る充実した出来の傑作だと思う。曲単体、というより、アルバム単位で選んだときには、私は今作をベスト3に間違いなく入れる。「MY FOOT」はそういうアルバムだ。

前作「GOOD DREAM」に比べると、ポップさを前面に押し出した作風だけれど、ただポップなだけではなくヴォーカル山中さわお一流の「ひねくれ」たユーモアとアイロニーが今作の魅力だ。音の面でも、ピロウズ流ズンドコ節などと呼ばれた「ノンフィクション」のリフや空中レジスターの「狙うライフルには宙返りのサービスを」といった歌詞などにそれを見て取れる。出世作にして代表作「Little Busters」では、絶望と孤独がどうしようもないほど深まっていた印象があった(聴いてると死にたくなるような鬱曲「Black Sheep」など)が、それから十年を経て、自身の孤独だとかひねくれた性格だとかを、ユーモアとアイロニーで突き放して、ポップさで聴きやすくくるんで提示できるまでになったのかと思うと、感慨深い。

しかし、ほんとに今作は出来がいい。何が良いかと言えば全体として、一枚のアルバムとして出来がいい。アップテンポの曲もメロウな曲もバラードも、一枚のアルバムのなかでの流れを阻害することなく、自然に次の曲、次の曲へと流れていって、最後まで聞いたときにはすぐさま最初からまた全部聞いてしまう、というような絶妙な構成になっている。時間も全部で41分、と聴き疲れしない長さ(ピロウズのアルバムはいつもレコードに収まるくらいの長さだ)なのもいい。今作では特にツインギターを生かしたアレンジが効いていて「サードアイ」でのインストパートだとか、聴いていて非常に楽しい。気持ちのよい音になっている。

ピロウズというバンドは知名度がかなりいまいちだけれど、曲を聴かせると間違いなくよい反応が返ってくる。とりあえずいままで、ロックポップスを聴く人で、ピロウズを勧めて不評だった例は一度もなかった。ヴォーカルさわおは、オアシス、ニルヴァーナが好きらしいが、同じくそのバンドが好きな知人にピロウズのベストを聴かせたら、結局私が持っているすべてのピロウズのアルバムを借りていったということがあった。

曲として突出して良いものを挙げるとすれば一曲目のタイトル曲「MY FOOT」になる。冒頭のドラムに、印象的なベースラインが絡んできて、ツインギターが左右で互い違いに音を入れてくるアレンジの良さはこれまでになかったような新機軸。歌メロもすばらしく、俺ピロウズ史上相当上位に来る一曲。


「MY FOOT」のライブ。ギターがちょっと粗め。

●Steve Hackett / Please Don't Touch!

Please Don't Touch

Please Don't Touch

このアイテムの詳細を見る世間的には「元ジェネシスのギタリスト」として知られているだろうスティーヴ・ハケット。ジェネシスといえば五大プログレッシヴ・ロック・バンドの一角として、あるいはフィル・コリンズを擁するポップバンドとしての方が有名だろうけれど、プログレとしてのジェネシスにもポップバンドとしてのジェネシスにも私はあまり惹かれない。ハケットを聴いたのは、ジョン・ウェットンイアン・マクドナルド参加のライブアルバム、「Tokyo Tapes」がはじめてで、そこからソロ四作目の「Spectral Mornings」を聴いたところ、これがすばらしく、それ以来少しずつアルバムを集めている。

で、これは1978年発表のソロ二作目にあたる。裏ジェネシスと呼ばれた1st、代表作とされる3rdに挾まれた本作は、多数のゲストヴォーカルを招いて制作されたヴォーカルアルバムとしての側面が強く、ハケットのなかでも特にポップさが押し出された作風で、プログレとしてのハケットを求める向きには不評なよう。

しかし、ヴォーカル曲の出来はすばらしく、またタイトル曲の「Please Don't Touch!」は、ライブでいまだに定番のハケットのインストの代表曲であり、ポップな中にプログレ趣味を仕込んで見せた絶妙のバランスを持った好作品だ。傑作といえば前述の通り1stや3rdかも知れないが、好きなアルバムだし、もっとも回数を聴いたアルバムでもある。

一曲目の「Narnia」はその名の通りナルニア国物語にインスパイアされたという曲。アコースティックギターの跳ねるようなアルペジオが少しずつ加速していってバンドサウンドに突入するイントロの格好良さは格別。アメリカンプログレバンドKansasのヴォーカル、スティーヴ・ウォルシュの歌もすばらしい。
三曲目は、曲調が二転三転するハイテンションなイントロからこれまたテンションの高いウォルシュのヴォーカルへとなだれ込む。爽快感のあるウォルシュのヴォーカルが一曲目に続き好印象。しつこくサビを繰り返したあと、突如アコースティックギターの演奏にかわり、最後にはエレキギターだったイントロのフレーズをアコギで再演して静かに終了する。曲は相当ポップなのにそんな構成がプログレ風。で、そのままハケットのアコギと実弟ジョン・ハケットのフルートによる小品「Kim」へ。ジャケットイラストも描いている妻キム・プーアの名前が付いた田舎の朝を思わせる牧歌的で美しい一曲。ハケットのアコギの代表作。レコード時代のA面最後に当たる「How Can I?」では、黒人シンガー、リッチー・ヘイヴンスがヴォーカルをとっている。

B面はほとんどの曲が前の曲と繋がっていて、メドレー形式になっている。その一曲目「Hoping Love Will Last」にはランディ・クロフォードという黒人女性のソウル、ジャズシンガーをフィーチャーしていて、ソウルフルなバラード。英国のプログレアルバムで黒人歌手がこれほど取り入られてるのはとても珍しいように思う。King Crimsonなんかアメリカ人を入れただけで非難されたというのに。この曲のエンディングからシームレスにインスト曲、千の秋の地に続く。この曲はキーボードがぼんやり鳴っているなかをいろんなSEが挿入されてくるという次曲のイントロ的な役割。この曲で不気味な雰囲気を盛り上げたあと、いきなりドラムが入ってタイトル曲「Please Don't Touch!」。うねりまくる独特のギターにフワフワしたキーボードがかぶさる不気味なパートが繰り返された後、ギターとフルートが絡んでポップで不気味な不思議なパートが演奏される。基本的にはこれらのパートを互い違いに演奏している感じなのだけれど、うねりと浮遊感を演出しまくる独特の怪奇とユーモアの世界観(ジャケットイラスト通りの)がすばらしい。スタジオ盤ではこの曲をぶったぎってまたもや独特のインストが挟まれ、ラストのヘイヴンスのヴォーカルによるバラード「Icarus Ascending」が始まる。これがまた名曲。

また、2005年に再発されたCDにはタイトル曲のライブが収録されていて、これがすばらしい。スタジオテイク以上にハケットがギターを弾きまくっていて、メロディの合間合間にギターをかきむしるような虫の鳴き声みたいな独特のフレーズをはさんで、ノリにのっている演奏が聴ける。ぶつ切りに終わるスタジオテイクよりもこのライブの方を良く聴く。


「Narnia」ライブ。スタジオ版とはヴォーカルが違うので歌の雰囲気が別物に。

Mike Oldfield / Incantations

Incantations

Incantations

このアイテムの詳細を見るマイク・オールドフィールドといえば映画エクソシストに「Tubular Bells」が使われたのが有名で、あのピアノフレーズならたぶん誰もが知っているだろう。また、八十年代のヒット曲「Moonlight Shadow」や「North Point」という曲名を吉本ばななファンなら知っているだろう。


エクソシスト」のテーマ、もとい、チューブラーベルズ導入部のピアノのみ。


マギー・ライリーのヴォーカルによる「ムーンライト・シャドウ」

で、そのオールドフィールドの1978年発表の四作目がこの邦題「呪文」の、レコード時代には二枚組で一面一曲ずつの計四曲、計72分という大作インスト(ヴォーカルパートもあるが)。チューブラーベルズなど初期のオールドフィールドは、一人で多くのの楽器を演奏し、数百回にも及ぶ多重録音で作品を作っていた。また、ベルズはヴァージンレコードの第一号レコードで、これが売れたことでいまのヴァージンがあるという意味でも歴史的な作品。そこから、「Hergest Ridge」「Ommadawn」とレコード一枚一曲の大作を出し、その後にこの、二枚組の初期オールドフィールドの集大成ともいえる「呪文」が来る。

集大成とはいっても、牧歌的でトラッドな、どちらかといえば内向きの作風の初期三部作とは異なり、多数のゲスト(スティーライ・スパンのマディ・プライア、ゴングのピエール・モエルランなど)やストリングス、コーラス隊などを導入し、非常に爽快かつ明朗そして開放的な雰囲気を持っている。

曲を説明するのは難しい。たとえば前に流行った「Image」などの癒し系とくくられたりする音楽の本家というか先祖みたいなところがあり、その手の音が好きならまず間違いなくはまれるとは思う。トラッド、ロック、プログレの融合でもあるだろうし、フルート、ストリングス、コーラス隊の美しい旋律がすばらしくもあり、その反復を繰り返す曲構成は、タイトルのように呪術的な印象もある。フルート、ストリングスだけではなく、キーボードの音もアナログな音が牧歌的な作風にうまく溶け込んでいて魅力的だし、パート2後半でのアフリカンドラムに載せて歌われるマディ・プライアによるヴォーカルのすばらしさはこのアルバムのハイライトで、パート3ではギタリストマイク・オールドフィールドの面目躍如とばかりに弾きまくるギターを聴くことが出来、パート4中盤のヴィブラフォン(オプション付き鉄琴?)による延々と十分近く続く反復フレーズから、ギターのもっとも印象的なメロディへ続く部分は最高にエキサイティングだし、最後の最後に、パート2後半での歌がリプライズしてエンディングに至る部分はいつ聴いてもすばらしい終わり方だと思う。

とにかく、いつ聴いても音色の良さ、メロディの良さ、雰囲気の良さ、ヴォーカルの良さに聴き入ってしまう。大傑作。

●Matchbox Twenty / More Than You Think You Are

モア・ザン・ユー・シンク・ユー・アー

モア・ザン・ユー・シンク・ユー・アー

Santanaの初期アルバムを聴いている時に、前出の知人から、そういやちょっとまえにサンタナが誰か若い奴とやってる曲が凄い売れてたよ、と聞きサンタナのグラミー九部門受賞というモンスターアルバム「Supernatural」収録の「Smooth」を聴き、凄く気に入ったので、そのヴォーカルロブ・トーマスがいるバンドである、このマッチボックストゥエンティの2002年発表の3rdを聴いてみたらこれが大当たり。

このバンド、96年のデビューアルバムが地方のラジオで火がつき99年には一千万枚を突破するほど売れたモンスターバンドで、アメリカ本国での人気はすさまじいものがあるそう。

今作はポップなロックアルバムとして歌メロの良さ、演奏のメリハリも効いていて、とにかくどの曲も水準が高くシングルヒットがねらえそうな曲ばかり、かといってベスト盤のように聴き疲れてしまわない曲ごとのバランスもよい。

白眉は二曲目の「Desease」で、ミック・ジャガーと共作したというこの曲でのメロディに饒舌な歌詞を詰め込むやり方はSmoothみたいで、クセになる。それ以外の曲も、第一曲から隠しトラック「So Sad So Lonely」に至るまで隙のない歌とアレンジでとにかく聴かせるアルバムになっている。

とにかくこれはよいアルバムだけれど、私の評価としてはこのバンドの1stと2ndはあまり評価できない。完成度が段違いだ。1stはいくつかの曲は良いものの(私が聴くのは最初の四曲だけ)、ロブの歌い方が荒々しく私には聞き苦しいし、録音にもあまり金がかかっていない。若々しいといえばいえるが、ちょっと微妙だ。また、2ndでは歌い方、録音、アレンジなどもかなりよくなったのだけれど、肝心の曲のクオリティが低く、このアルバムからは「Bent」と「Bed Of Lies」しか聴かない。そして、ロブ・トーマスのソロアルバムでも、やっぱり曲の出来がばらついていて、3rdほどの完成度はない。

で、3rdでこの完成度なら、次はどうなるのかと思っていたら、バンドとしての活動を休止してメンバーはソロをやっているらしい。そうこうしている間にリズムギターやアコギ担当のアダムがバンドを脱退。どうなるかと思っていたら、27日付けのニュースで、来年に新作が出るかも知れないという情報。さて、どうなるのか。


「Desease」PV

また、オフィシャルサイトでは彼らの全アルバムの全曲がフルレングスで視聴できる。驚愕。
http://www.matchboxtwenty.com/music/

●Iona / Journey into the Morn

Journey Into the Morn

Journey Into the Morn

アイルランドケルティックプログレッシヴ・ロック・バンド、アイオナの95年発表四枚目のアルバム、邦題は「明日への旅路」。イーリアンパイプ(脇にふいごみたいなのを挟んでそれで音を出すバグパイプ)やホイッスルといった民族楽器を駆使して独自のケルティック・ロックを提示したバンドとして、その筋には有名。ケルト音楽といえば、エンヤが特に有名で、エンヤとその妹モイア・ブレナンのいたバンドとしてClannadクラナドが知られているけれど、私はその両者にはあまり惹かれなかった。

たとえばチーフタンズのようにもろトラッドというわけではなく、基本はプログレの影響を受けたロックだ。その点でロックやプログレのリスナーには聴きやすい。

私は四枚目以降、今年出た六枚目までを聴いたけれど、どのアルバムも完成度、楽曲のクオリティ共々非常に水準が高く、優れたアルバムばかりだ。私はこのアルバムで初めてアイオナを聴いたので、これを取り上げたが、基本的にはずれのないバンドだと思って良いだろう。

「progarchives.com Iona」
数曲フルで視聴できる。